ワクチン接種は、伝染病の病原体に対する抗体を作り、免疫(抵抗力)をつけるために行います。
ワクチンを接種しておけば、万が一、その病気に感染しても、発症が防げたり、軽症ですんだりします。
現在、ワクチンで予防できる病気は、下記の5種類があります。
いずれの病気も、感染したら命を落とすこともある恐ろしい病気ばかりです。
予防できる病気で愛猫を失うことがないよう、定期的に予防接種を受けさせることは、飼い主の愛情でもあります。
猫汎白血球減少症(猫伝染性腸炎)
【原因】猫のパルボウイルスが原因。感染力が強く、感染後急激に症状が出て、体力の弱い子猫など一日で死亡することもある恐ろしい病気です。
【感染経路】感染猫との接触、感染猫の便や尿、嘔吐物で汚染されたもの、またノミなどの外部寄生虫によっても拡散されます。
【症状】最初は食欲がなくなり、水も飲まずにうずくまった状態になります。
白血球が極端に減少し、発熱、激しい嘔吐、時として血便や下痢が始まり、脱水症状が続くと衰弱し特に子猫では非常に死亡率が高いです。
猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)
【原因】猫のヘルペスウイルスが原因。
【感染経路】感染猫のくしゃみや分泌物などから感染し、猫の「鼻かぜ」ともいわれています。
【症状】急な元気喪失や食欲消失、40℃前後の発熱、鼻水、くしゃみ、目ヤニなど。
強い感染力があり、他のウイルスや細菌との混合感染を引き起こして重篤な症状となり、死亡することもあります。
下痢から脱水症状を起こして衰弱が進み、死亡の原因ともなります。
猫カリシウイルス感染症(FCV(FC-7、FC-28、FC-64))
【原因】猫のカリシウイルスに感染することが原因で、猫のインフルエンザとも呼ばれています。
【感染経路】感染猫との直接接触の他、クシャミの飛沫、手、衣服、食器などの媒介物によっても感染。
【症状】初期症状は、クシャミ、鼻水、咳、発熱など猫ウイルス性鼻気管炎と類似した
カゼのような症状を示しますが、進行すると口の中や舌に水疱や潰瘍を作ります。
一般的に鼻気管炎よりは軽い症状ですが、混合感染する場合が多く、二次感染が起きると肺炎を併発して死に至る場合があります。
猫白血病ウイルス感染症(FeLV)
【原因】オンコウイルス(レトロウイルスの一種)が原因。
【感染経路】ウイルスは感染猫の唾液や血液などに含まれ、猫同士のケンカによる接触などで感染します。
【症状】白血病を引き起こしたり、免疫力が低下し、流産や腎臓病、リンパ腫などの腫瘍性の病気、貧血、肝炎あるいは病気に対する抵抗力が弱くなって他の感染症を併発することもあります。
これらはいずれも根本的な治療法はなく、死亡する危険性の高い恐ろしい病気です。
特に生後間もない子猫が感染すると発病しやすく、死亡率も高いです。
猫クラミジア感染症
【原因】猫のクラミジアが原因。
【感染経路】感染猫との接触で感染します。
【症状】猫ウイルス性鼻気管炎や猫カリシウイルス感染症と同様のカゼのような症状や結膜炎、角膜炎などの目の病気を起こし、結膜炎は2〜6週間続きます。
他のウイルスや細菌との混合感染によって症状がひどくなり、肺炎になったり、結膜炎が慢性化することがあります。
時に、気管炎、肺炎などを併発し、重症化すると死亡することもあります。
ワクチンで予防できない&ワクチンが普及していない病気
次の二つは、感染しても必ずしも発症するわけではありませんが(感染の有無は血液検査で判明)、発症すれば致死率の高い感染症です。早期に発見し治療することで、良い状態を長く保てる場合もありますが、完治はしません。
「猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ)」は、現在、国内でもワクチン接種が可能になりましたが、まだ他のワクチンほど実績がありません。また、猫伝染性腹膜炎(FIP)にはワクチンがありません。予防のためには、感染の恐れがある他の猫との接触を避け、室内での飼育が望まれます。
猫伝染性腹膜炎(FIP)
【原因】コロナウイルスが原因。
猫に感染するコロナウイルスにはいくつかあり、猫伝染性腹膜炎を起こすものと、腸炎を起こす腸炎性コロナウイルスがあります。
【感染経路】発病した猫の唾液、鼻水、便、尿から、直接または間接的に経口・経鼻感染しますが、感染力はあまり強くありません。
【症状】初期の症状には、食欲消失や発熱が見られたりします。重篤になると腹水や胸水、黄疸の症状が出たり、他の臓器も侵され、様々な症状が発現します。
猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)
【原因】一般に猫エイズと呼ばれる病気ですが、人のエイズとはまったく異なる別の病気で、人や他の動物に感染することはありません。
【感染経路】感染は猫同士の接触によるもので、ケンカなどでの咬み傷から感染する場合がほとんどです。
【症状】猫エイズウイルスに感染し、病気が発症し免疫不全を起こして初めて猫エイズとなります。
感染しても発症していない猫は、無症状キャリアと呼んで区別します。
【ワクチン】日本でも2008年8月から接種可能になりました。初年度は2〜3週間毎に3回の接種が必要だったり、また接種前に感染の有無を調べる検査も受けなければなりません。
今までのワクチンと一緒に接種はできませんので、新しいワクチンプログラムが必要になります。
まだ様子を見ている動物病院も多いので、まずはかかりつけの獣医師にご相談下さい。
ワクチンは定期的に受けることが大切
ワクチンで作られる抗体は一生モノではなく、免疫も徐々に薄れているので、継続して予防接種を受けることが大切です。
子猫の場合は、母猫からの初乳を介して母親の免疫を譲り受けます。これを「移行抗体」とよびますが、生後6〜13週くらいで効果は薄れていき抵抗力が失われるので、この頃に病気にかかりやすくなります。そこで、生後50日から8週の間にまず1回目のワクチンを接種します。しかし、母親譲りの免疫がまだ残っていると十分な免疫効果を受けることができません。そこで、より確実に免疫を作るために、最初に接種した後に、2〜4週間間隔で、さらに1〜2回の追加接種を行います。こうして子猫のときに作られた免疫効果も時間の経過とともに薄れていくので、成猫では基本的に毎年1回の追加接種が行われます。
ワクチンの組み合わせには「猫ウイルス性鼻気管炎」「猫カリシウイルス感染症(FCV)」「猫汎白血球減少症」の3種混合ワクチンと、「猫白血病ウイルス感染症」「猫カリシウイルス感染症(FC-7)」を足した5種混合、さらに「クラミジア感染症」「猫カリシウイルス感染症(FC-28、FC-64)」を加えた7種混合があります。
猫白血病ウイルスのワクチンの場合は、必ず事前に血液検査を行って、感染していないことを確認してから接種します。
予防接種の種類や時期、接種のサイクルについては、かかりつけの獣医師とよく相談してください。
室内飼育でもワクチンは必要
「うちは完全室内飼育で一歩も外に出さないから、ワクチンは不要」と思っている人もいるようです。しかし、なかには空気感染するものもあり、飼い主がウイルスを運んでくることも考えられます。「絶対に大丈夫」ということは誰にも言い切れないので、愛猫が伝染病にかかって後悔しないためにも、ワクチン接種をしておいたほうが安心です。
ワクチン接種後の体調も観察して
ワクチン接種をきちんと定期的に受けることはもちろん大切ですが、愛猫の健康状態をよく観察して、必ず体調がよいときに受けてください。
接種後は安静にし、ストレスを与えたり、激しい運動をさせないようにします。まれに、ワクチンでアレルギーを起こす猫もいます。接種部位の軽い腫れや軽い発熱くらいなら治療もいりませんが、ごくまれにアナフィラキシーと呼ばれる、重度のアレルギー反応が起きることがあり、呼吸困難に陥るなど生命に関わる症状を示します。しかしアナフィラキシーが起きる確率はきわめて低く、それを恐れてワクチン接種をしないのは、賢明な選択とはいえません。感染症のリスクの方がより大きいので、心配な場合は注射した後すぐに帰らず、待合室で15分くらい様子を見てあげれば、万一の備えにもなります。
花王「愛猫と暮らす生活事典」などより引用
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